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訪問購入(出張買取)規制の実務

出張買取は特定商取引法第5章の2「訪問購入」の規制対象であり、いわゆる「押し買い」対策として2013年(平成25年)2月21日に施行された。 古物商許可とは別系統の消費者保護規制で、勧誘の入口から買い取った物品の転売管理までを縛る。 実務の最重要ポイントは、不招請勧誘の禁止と、8日間のクーリングオフ+物品の引渡し拒絶権である。 規制の全体像と他法令との重畳は法規制セクションのガイドのマトリクスも参照されたい。

位置づけ

本ページは社内理解用の整理であり、法的助言ではない。個別案件の判断は消費者庁相談窓口・顧問弁護士に確認すること。

概要

  • 「訪問購入」とは: 物品の購入業者が、営業所等以外の場所(消費者の自宅等)で売買契約の申込みを受け、又は契約を締結して行う物品の購入(法第58条の4)。
  • 原則すべての物品が対象。相手方の利益を損なうおそれがない等の物品のみ政令(施行令第34条)で除外。
  • 営業のために・営業として契約する者との取引等は適用除外(法第58条の17)。御用聞き・常連取引・転居に伴う売買の誘引は一部規定のみ除外。
  • 2023年6月1日施行の改正により、書面等の電子化(消費者の事前承諾を条件に電磁的方法での交付が可能)が適用される1

規制対象外の物品(施行令第34条)

除外物品 実務上の注意
自動車(二輪のものを除く)
家庭用電気機械器具(携行が容易なものを除く) 携行容易な小型家電は規制対象
家具
書籍
有価証券
レコード・CD・DVD・ゲームソフト等(磁気的・光学的記録媒体)

出張買取の主力品目は規制対象

貴金属・ブランド品・着物・切手等はすべて規制対象。除外品目の買取名目で訪問し、現場で規制対象品を勧誘する行為も違反となる。

実務フロー図

実務フロー図

テキスト版(Mermaid・編集用)
flowchart TD
    A["顧客からの来訪要請を記録(通話録音・申込フォーム)"] --> B{"買取勧誘まで要請されたか"}
    B -- "査定依頼のみ" --> C["訪問先で勧誘しない/勧誘可否を改めて確認"]
    B -- "勧誘要請あり" --> D["訪問: 社名・氏名・目的・物品種類を明示"]
    C --> D
    D --> E["勧誘意思を確認。拒否されたら即終了・再勧誘しない"]
    E --> F["契約成立: その場で法定書面を交付"]
    F --> G["物品を受け取る際に引渡し拒絶できる旨を告知"]
    G --> H["8日間は転売保留(社内ステータスでロック)"]
    H --> I["やむを得ず第三者へ引き渡す場合は売主へ通知+第三者へ通知"]
    I --> J["クーリングオフ期間経過後に通常販売フローへ"]

義務の詳細

場面 規制 条文
訪問前 不招請勧誘の禁止(勧誘の要請をしていない者への訪問勧誘・勧誘意思確認の禁止) 法第58条の6第1項
訪問時 事業者名・氏名・勧誘目的・物品の種類の明示 法第58条の5
勧誘開始前 勧誘を受ける意思があることの確認 法第58条の6第2項
拒否されたら 再勧誘の禁止 法第58条の6第3項
勧誘中 不実告知・威迫困惑等の禁止 法第58条の10
申込・契約時 法定書面の交付(クーリングオフ事項等を記載) 法第58条の7・第58条の8
物品受領時 引渡しを拒めることの告知 法第58条の9
第三者へ引渡す時 売主への通知/第三者への通知 法第58条の11・第58条の11の2
契約後8日間 クーリングオフ 法第58条の14
同期間 物品の引渡し拒絶権(売主側の権利) 法第58条の15

「査定だけなら」は勧誘の要請ではない

相手の依頼が査定のみの場合に、訪問してそのまま買取勧誘を行うと不招請勧誘(法第58条の6第1項)に該当しうる。アポイント取得時に「買取の勧誘を行ってよいか」まで確認し、記録を残す運用を徹底する。

クーリングオフ(法第58条の14)の要点

  • 期間は法定書面の受領日から起算して8日間。書面の不交付・記載不備の場合は期間が進行しない。
  • 通知は書面のほか電磁的記録(電子メール等)でも可能(2022年6月1日施行の改正による)2
  • 事業者は損害賠償・違約金を請求できない。物品が第三者へ移転していても、善意無過失の第三者を除き、売主は所有権を主張できる。
  • クーリングオフ期間中、売主は物品の引渡し自体を拒める法第58条の15)。引渡しを急がせる・強要する行為は処分の典型事由。

書面交付の電子化(2023年6月施行)

2023年6月1日施行の改正により、消費者が事前に承諾した場合に限り、申込書面・契約書面を電子メール等の電磁的方法で交付できるようになった。消費者が紙の書面を希望した場合は電子化できない。訪問購入の現場での運用には「承諾の取得と記録」を先行させる必要がある1

罰則・行政処分

違反行為 処分・罰則 根拠
不招請勧誘・再勧誘・書面不交付等 主務官庁による指示 法第58条の12
指示違反・特に悪質な行為 業務停止命令(最長2年) 法第58条の13
法人・役員への特定措置 業務禁止命令 法第58条の13の2
不実告知・威迫・書面不交付等 刑事罰(条文・量刑は消費者庁の条文ガイドを確認) 法第70条〜

処分は公表される

指示・業務停止命令の処分は事業者名とともに消費者庁・都道府県のウェブサイト等に公表される。現場1件のトラブルが社名公表・販路停止に直結しうる。

実務のポイント

アポイント〜書面交付チェックリスト

  • 電話・フォームでのアポイント取得時に「買取の勧誘を行ってよいか」まで確認し録音・記録
  • 訪問スタッフは社名・氏名・目的・物品種類を冒頭で告知(トークスクリプトに組み込む)
  • 勧誘の意思確認を行い、拒否があれば即終了・再勧誘しない
  • 契約成立時に法定事項を記載した書面をその場で交付(または電子承諾取得後に電子交付)
  • 物品受取時に「8日間は引渡しを拒める」旨を口頭・書面で告知

8日ロック管理チェックリスト

  • 買取日からシステム上で8日間の転売ロックを設定
  • ロック中は商品に「クーリングオフ対象品」のステータスを付与
  • 期間中の第三者転売・溶解・スクラップ化は禁止
  • やむを得ず第三者へ引き渡す場合は、売主と第三者の双方へ通知

典型的な違反パターン

  1. 「査定のみ」でアポを取り、現場で買取勧誘: 不招請勧誘に該当。アポ段階で勧誘許可を取得すること。
  2. 除外品目の買取名目で訪問し、貴金属を勧誘: 書籍を見に来たと言って、現場で着物・宝石を勧誘する行為。規制対象に当たる。
  3. クーリングオフ期間中の溶解・転売: 8日以内の処分は厳禁。第三者通知をしても売主の権利は消えない。
  4. 書面の記載不備でクーリングオフ期間が進行しない: 書面に必要事項(クーリングオフの期間・方法等)が欠けると期間が起算されず、事業者にとって不利な状況が継続する。

よくある質問

「常連客なら訪問してもよい」は本当か?

御用聞き・常連取引は施行令の要件を満たす場合に一部除外があるが、要件は厳格に定められている。「付き合いが長ければOK」という理解は誤り。管轄の消費者庁相談窓口か顧問弁護士に確認すること。

電話での勧誘はどう扱われるか?

法は「訪問」規制だが、電話で勧誘意思のない者に訪問を打診する行為は、実質的な不招請勧誘となりうる。また電話による威迫・困惑行為は別途禁止されている。

クーリングオフ通知はSNSやチャットでも有効か?

2021年(令和3年)改正法により、2022年6月1日からクーリングオフの電磁的通知が可能になった。SNS・チャットを活用する場合でも「消費者から事業者へ通知した記録が残ること」が必要。既読確認やスクリーンショット保存など、記録性の確保を検討すること。

古物商許可があれば訪問購入規制は免除されるか?

免除されない。両規制は重畳適用される。古物営業法の本人確認と特商法の書面交付は別々に実施する必要がある(古物営業法の実務)。

訪問購入の対象物品を複数買い取った場合、書面は1枚でよいか?

書面の記載事項として物品ごとの種類・価格が必要。複数品目を1枚にまとめる場合は各品目の記載が漏れないよう注意する。

改正動向

  • デジタル取引・特定商取引法等検討会(2026年〜): 消費者庁は2026年1月22日に第1回検討会を開催し、2026年夏頃の中間取りまとめを目指して審議中(2026年6月11日時点で第6回まで開催)3。訪問販売・連鎖販売が主対象だが、書面電子化や勧誘規制への影響が波及する可能性がある。
  • 詳細は規制改正ウォッチを参照。

出典・参考リンク


  1. 2023年6月1日施行の特定商取引法改正により書面等の電子化が可能になった。消費者の事前承諾が必須条件。GMOサイン: 特商法書面電子化解説を参照。 

  2. 特定商取引法の一部を改正する法律(令和3年法律第72号)により、令和4年(2022年)6月1日からクーリングオフの電磁的方法による通知が可能となった。消費者庁 クーリングオフパンフレット(PDF)を参照。 

  3. 消費者庁: デジタル取引・特定商取引法等検討会。2026年6月11日開催の第6回まで確認。