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犯罪収益移転防止法と買取実務

金・プラチナ・宝石類の買取を業として行う古物商は、犯罪収益移転防止法(犯収法)上の「宝石・貴金属等取扱事業者」として特定事業者に該当する。 代金を現金で200万円を超えて支払う売買には取引時確認が義務付けられ、金額にかかわらず疑わしい取引の届出義務を負う。 古物営業法の本人確認とは確認事項・記録・保存期間が異なる別建ての義務であり、買取フローに両方を組み込む必要がある。 規制の全体像と他法令との重畳は法規制セクションのガイドのマトリクスも参照されたい。

位置づけ

本ページは社内理解用の整理であり、法的助言ではない。個別案件の判断は管轄警察署・JAFIC窓口・顧問弁護士に確認すること。

概要

  • 犯収法はマネー・ローンダリング、テロ資金供与対策(FATF勧告対応)の基本法。特定事業者ごとに取引時確認・記録作成・届出の義務を課す(法第4条〜第8条)。
  • 「貴金属」: 金・白金・銀及びこれらの合金。「宝石」: ダイヤモンドその他の貴石・半貴石・真珠。これらの製品の売買を業として行う事業者(貴金属等を扱う古物商・質屋を含む)が対象(法第2条第2項)。
  • 監督手段として行政庁の報告徴収・立入検査・是正命令等がある(法第15条〜第18条)。
  • 用語の定義は用語集を参照。

実務フロー図

実務フロー図

テキスト版(Mermaid・編集用)
flowchart TD
    A["貴金属・宝石類の買取受付"] --> B["古物営業法上の本人確認(1万円以上)"]
    B --> C{"代金を現金で支払うか"}
    C -- "振込" --> F["疑わしい兆候チェック"]
    C -- "現金" --> D{"200万円超か(分割は合算して判定)"}
    D -- "いいえ" --> F
    D -- "はい" --> E["犯収法の取引時確認: 本人確認書類+取引目的+職業"]
    E --> E2["確認記録を直ちに作成(7年保存)"]
    E2 --> G["支払実行・取引記録作成(7年保存)"]
    F --> H{"疑わしい取引に該当するか"}
    G --> H
    H -- "はい" --> I["疑わしい取引の届出(顧客には秘匿)"]
    H -- "いいえ" --> J["通常処理・古物台帳記録へ"]

義務の詳細

義務 根拠条文 トリガー 内容・保存期間
取引時確認 法第4条第1項 代金が現金で200万円超の貴金属等売買 本人特定事項+取引目的+職業(法人は事業内容・実質的支配者も)
厳格な取引時確認 法第4条第2項 なりすまし疑い等のハイリスク取引 追加書類で厳格に確認。200万円超なら資産・収入の状況も確認
確認記録の作成・保存 法第6条 取引時確認を行ったとき 直ちに作成し7年間保存
取引記録の作成・保存 法第7条 200万円超の現金取引 直ちに作成し7年間保存
疑わしい取引の届出 法第8条 金額不問 速やかに届出。届出の事実は顧客に漏らさない(同条第3項

古物台帳との保存期間の違い

古物台帳の保存期間は最終記載日から3年。犯収法の確認記録・取引記録は7年と長い。同一の買取であっても両方の記録義務が独立して存在する(古物営業法の実務)。

取引時確認の確認事項(個人の場合)

確認事項 方法の例
本人特定事項(氏名・住居・生年月日) 運転免許証・マイナンバーカード・旅券等の提示
取引を行う目的 申告を受ける
職業 申告を受ける

法人の場合は名称・本店所在地のほか、事業内容と実質的支配者の本人特定事項まで確認する。届出は電子政府窓口または営業所所在地を管轄する警察署(生活安全課)経由で行う1

疑わしい取引のチェック観点(例)

警察庁JAFICが公表する業種別「疑わしい取引の参考事例」2を参照し、店舗マニュアル・研修に反映する。

  • 短期間に同一人物が高額の貴金属を反復して持ち込む
  • 200万円をわずかに下回る現金取引を繰り返す(取引分割の疑い。分割が明らかな場合は合算判定)
  • 本人確認を執拗に避ける、他人名義と疑われる書類を提示する
  • 品物の入手経緯や売却理由の説明が不自然

罰則・行政処分

違反行為 罰則・処分 根拠
是正命令違反 2年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又は併科 法第27条(条文はe-Gov法令検索で最終確認推奨)
報告拒否・虚偽報告・立入検査忌避 6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 法第29条(条文はe-Gov法令検索で最終確認推奨)
行政庁の是正命令(確認・届出の不備) 是正命令 法第18条

取引拒絶の権利と義務

顧客が取引時確認に応じない場合、事業者は確認に応じるまで取引に係る義務の履行を拒むことができる法第5条)。「確認できないなら買い取らない」が法の想定する運用。

実務のポイント

買取フロー組込みチェックリスト

  • 貴金属・宝石類の品目には古物営業法の本人確認とは別に犯収法の確認フローを紐付け
  • 代金支払方法を受付段階で確認(現金 / 振込)
  • 現金支払かつ200万円超の場合は取引時確認を実施(確認事項:本人特定事項・目的・職業)
  • 確認記録を直ちに作成・7年間保存(電磁的記録も可)
  • 支払実行後に取引記録を作成・7年間保存
  • 疑わしい取引チェックリストを全件スキャン
  • 届出が必要と判断した場合は顧客に知らせずに速やかに届出

典型的な違反パターン

  1. 「古物法で本人確認済みだから犯収法も完了」: 犯収法は取引目的・職業の確認まで必要で、記録の保存期間も異なる。別管理が必要。
  2. 「200万円以下なら何も義務がない」: 疑わしい取引の届出は金額不問。
  3. 「振込払いなら無関係」: 現金200万円超が取引時確認のトリガーだが、疑わしい取引の届出は決済手段を問わない。
  4. 届出を顧客に伝える: 法第8条第3項で顧客への通知は禁止。現場用に「本部確認中」等のトークを整備しておく。

よくある質問

ブランド品(時計・バッグ)の買取は犯収法の対象か?

「貴金属」「宝石」に該当しない純粋なブランド品(時計・バッグ等)は、通常は犯収法の特定取引のトリガーとなる「宝石・貴金属等売買」には該当しない。ただし時計に金やプラチナが使われている場合は含まれる可能性がある。実際の品目・取引内容で判断すること。

現金で150万円、翌日また100万円支払う場合は合算するか?

分割が同一の意思決定に基づくと認められる場合は合算して200万円超と判定される。「分割払いで免れる」という運用は法の趣旨に反する。

疑わしい取引の届出後、顧客から「なぜ届け出たのか」と問われたら?

届出の事実を顧客に告げることは法第8条第3項で禁止されている。「お答えできません」と応答し、詳細は本部・法務担当に連絡する体制を整える。

確認記録・取引記録はどの媒体で保存すればよいか?

文書・電磁的記録・マイクロフィルムのいずれも可能。電磁的記録を用いる場合は改ざん防止措置等の施行規則上の要件を満たすこと。

本人確認方法が2027年に変わると聞いたが何が変わるか?

犯収法施行規則の改正(改正準備中・施行日は予定・未確定)で、非対面本人確認における書類の画像送信方式が原則廃止予定とされ、マイナンバーカードの公的個人認証(JPKI)への一本化が進む見込み。公布状況はJAFIC公式ページで要確認。宅配買取フォーム・Webフォームのekyc設計を早期に見直すことを推奨。詳細は規制改正ウォッチを参照。

改正動向

  • 犯収法施行規則の改正(改正準備中・施行日は予定・未確定): 非対面本人確認でeKYC画像送信方式が原則廃止予定。マイナンバーカードのICチップを用いた公的個人認証(JPKI)への一本化3。施行日・公布状況は警察庁JAFIC 法令・パブコメページで最新情報を確認すること。宅配買取・Web買取のフロー全面改修の早期準備を推奨。
  • FATF相互審査への対応: 日本は2024年のFATF対日審査結果を受け、マネロン対策の実効性強化が継続課題。当局の検査・指導強化が見込まれる。
  • 詳細は規制改正ウォッチを参照。

出典・参考リンク


  1. 疑わしい取引の届出先は、電子政府窓口(e-Gov)または営業所を管轄する警察署の生活安全課。神奈川県警察の案内を参照。 

  2. 警察庁JAFIC 法令・パブコメページ内のリンクから業種別の「疑わしい取引の参考事例」を確認できる。 

  3. 2025年2月に警察庁がパブコメを実施した犯収法施行規則改正案による。TrustDock: 犯収法の2025年以降の改正動向解説も参照。施行日・内容はJAFIC公式ページで最新情報を確認すること。